今回は、Classcaの納車整備の中から「オイル下がり」の対策整備をご紹介します。バルブステムシールの交換です。担当は、メカニックの米倉です。
年式を重ねたミニでは、朝いちばんにエンジンをかけたときにマフラーから白い煙が出る、オイルの減りが早い、プラグがくすぶる。こうした症状が出ることがあります。その原因のひとつが、このオイル下がりです。
Classcaでは入庫時に150項目以上の点検を行い、必要と判断した車両には納車整備でこの作業を実施しています。外からは見えない部分ですが、ここを手当てしておくかどうかで、その後の安心感がまるで違ってきます。
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「オイル下がり」と「オイル上がり」は、別の症状です

エンジンがオイルを食う症状には、大きく分けて「オイル下がり」と「オイル上がり」の2つがあります。名前は似ていますが、原因も、作業の規模もまったく違います。
オイル下がりは、バルブとバルブガイドのすき間から、エンジンオイルが上から燃焼室へ落ちてくる症状です。そのすき間をふさいでいるのがバルブステムシール。このゴムが硬くなって役目を果たさなくなると、オイルが入り込んでしまいます。今回交換するのは、このシールです。
オイル上がりのほうは、エンジンブロック側の話になります。ピストンリングやシリンダーの摩耗で、下からオイルが上がってくる。こちらはエンジンを降ろして、シリンダーを仕上げ直す大がかりな作業になります。
バルブステムシールの交換は、エンジンを降ろさずに、車に載せたままできる作業です。「そんなに大きな作業ではない」と米倉も言うとおり、朝いちの白煙を抑えるために、納車整備の中で現実的に手を入れられる一手なのです。
ミニにオイル下がりが多いのは、熱が逃げにくいから
「特にミニの場合は、オイル下がりが多いですよね」
国産のエンジンであれば、よほどオイル管理が悪くない限りそう簡単には起きない。それがミニでは起きやすい。理由は、このエンジンが熱を逃がしにくいことにあると米倉は見ています。
この日は、前日のうちに3本のシールを外してありました。取り外したものを見ると、シールの上側がすっかり硬くなっています。爪で押してみると、キュッ、キュッと音がするだけで、ゴムがまるでたわみません。
「これだけ弾性がなくなると、もうそのすき間からオイルがずわーっと入ってくるんですよ」
新品のときにはしなやかにバルブへ密着していたゴムが、熱を浴び続けて硬化し、密着をやめてしまう。これがオイル下がりの正体です。
いちばん熱を持つのは、2番と3番の排気バルブ

ミニのA型エンジンは「5ポート」と呼ばれる構造です。ヘッドに開いている穴が、吸気2つ・排気3つの合計5つ。ここに、この症状が出やすい理由がもうひとつ隠れています。
排気は3つの穴のうち、1番と4番はそれぞれ独立していますが、2番と3番だけは、1つの穴にまとめられています。2気筒分の排気ガスが1か所に集まるわけですから、当然その周辺は熱を持ちます。
「2番3番の排気バルブは、焼けるんですよ」
燃焼室で爆発が起きれば、その熱はバルブを伝わって上がってきます。バルブが立っている、そのすぐ脇にあるのがステムシールです。構造上いちばん過酷な場所に、いちばん熱に弱いゴム部品がいる。ミニのオイル下がりが定番の症状である理由は、ここにあります。
バルブを落とさないための下ごしらえ

ここからが実作業です。ただしその前に、この作業ならではの下ごしらえがあります。
バルブを押さえているスプリングを外すと、バルブはシリンダーの中へストンと落ちてしまいます。落ちてしまえば、ヘッドを降ろさない限り拾い上げることはできません。これを絶対に起こさないための段取りが、この作業のいちばんの勘どころです。
まず、作業するシリンダーを上死点(ピストントップ)に合わせます。ピストンがいちばん上まで来ている状態なら、万一バルブが落ちてもピストンの頭で受け止められ、落下はごくわずかで済みます。下死点にあると、バルブは下まで落ちてしまいます。
そのうえで、プラグの穴からエアを送り込みます。燃焼室の中を圧力で満たしてやれば、バルブは下から押し上げられて落ちません。上死点とエア、二重の保険でリスクを潰していきます。

ところが、エアを入れるとエア圧でクランクが回ってしまいます。せっかく合わせた上死点が動いてしまっては、押さえた意味がありません。
そこでフライホイールロックを取り付けて、クランクの回転そのものを止めてしまいます。2番の上死点で固定した状態をつくり、ここでようやくロッカーアームをずらして、工具をセットできる状態になります。
コッターを外す。ここがいちばん気を使うところ

バルブスプリングコンプレッサーをセットし、スプリングを縮めていきます。スプリングの上側、リテーナーを留めているのがコッターという小さな割れピンのような部品で、これを外すとスプリングとリテーナーが抜け、古いシールに手が届きます。
ただし、そのまま素直に押し込んでも外れてくれないことがあります。
「このまま押したんでは、たぶんコッターごと下がるんですよ」

リテーナーとコッターが固着していると、工具で押した力がそのまま一緒に下がってしまい、コッターだけが緩んでくれません。そこで一度、軽く衝撃を与えてやります。コツン、と一度叩くだけで固着が切れ、次に押したときには狙いどおりコッターが顔を出してくれます。
言葉にすれば「ちょっとしたこと」なのですが、この一手間があるかないかで、作業の確実さが変わります。小さな部品を落とせば、それだけで話がややこしくなる場所でもあります。
コッターには「向き」がある

古いシールを抜き、新しいシールを入れたら、あとは外したときの逆手順で組み付けていきます。
「そんなに難しい作業じゃないんですけど、やっぱりコッターとかを入れるのに気を使うぐらいで」
そのコッターには向きがあります。断面がハス型になっていて、上下を逆に入れれば正しく噛みません。さらに、リングが2つ付いているタイプ、1つのタイプなど、いくつか種類があります。部品を見て、どちらが上かを確かめてから収める。当たり前のことですが、組んでしまえば見えなくなる部品だからこそ、ここを飛ばすわけにはいきません。
スプリングとリテーナーを戻し、コッターを収め、工具を外す。最後にエアを抜き、バルブの頭を軽くポンポンと叩いて当たりを馴染ませます。これで1本分のシール交換が終わりです。
仕上げはタペットクリアランス。数字と、指の感覚

シールを組み替えたら、最後にタペットクリアランスを調整します。バルブとロッカーアームのすき間を、シクネスゲージで測りながら合わせていく作業です。
この車両はインジェクション。「インジェクションはMAXで0.33mm」と米倉。キャブレター仕様より少し幅が広かったはず、とのことです。
ただし、ここが数字だけでは決まりません。
「この入り方、分かりますかね。シュッと入ってるのは。でもこの感覚だと、ちょっと緩いなと。もう気持ち、硬い方がいいかなっていう。ここは感覚なんですよ」
同じゲージでも、入り方には幅があります。スッと通ってしまうのは緩い。まったく動かないのは締めすぎ。米倉が教わったのは「ゲージが入って、横にスライドして抜けるぐらい」という基準でした。そのうえで、自分の好みとしてはもう少しシュッと抜けるくらい、と言います。
もうひとつ、現場ならではの読みがあります。
「この1発目の締め加減で出ることもあるんですよ。わざとちょっと強めに締めておくと、ロックナットを締めたときにネジが伸びて、ちょうどになったりするんですよね」
調整ネジを締め込み、ロックナットで固定すると、その締め付けでネジがわずかに伸びてすき間が変わります。その分を見越して、先に少し強めに当てておく。測ってから締めるのではなく、締めたあとに正解になるところへ当てておくという手順です。長く同じエンジンを触ってきた人の手つきだと感じました。

本来はこのあと、フライホイールロックを外してクランクを1回転させ、もう一度すき間をチェックします。問題がなければロッカーカバーを取り付けて、作業は終了です。
余談:シングルスプリングとダブルスプリング
今回のインジェクション車は、バルブスプリングが1本でした。一方、チューニングヘッドになると、この中にもう1本スプリングが入ったダブルスプリングになります。
理由はバルブサージングと呼ばれる現象です。高回転でバルブを高速に押し続けると、スプリングの戻りが追いつかなくなり、バルブが暴れはじめます。そうなればエンジンが壊れます。それを抑え込むために、スプリングをもう1本入れて押さえるのです。
「下道で乗る分には、1本で全然大丈夫ですよ」
もっとも、ダブルスプリングのヘッドは、今回のような作業をするときにスプリングが硬く、それだけ手間がかかることになります。
見えないところこそ、納車整備で
バルブステムシールの交換は、外から見て分かる整備ではありません。仕上がったあとの見た目は、作業前と何も変わりません。
それでも、朝いちの白煙が消え、オイルの減りが落ち着き、プラグがくすぶらなくなる。ミニに長く乗っていただくうえで、効いてくる整備です。
Classcaでは、車両の入庫後に試運転やリフトアップ点検を含む150項目以上のチェックを行い、その結果をもとに1台ごとのコンディションに合わせた納車整備を行っています。必要な整備を中心に行う「ベーシック整備」と、将来のトラブルを予防する整備まで含めた「アップグレードパック整備」の2種類をご用意しています。
整備内容の詳細は各商品車のページに掲載しております。ご来店いただければ、現車をご覧いただきながら、どこにどう手を入れたのかを直接ご説明いたします。



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