ジャガー・XJR-15の概要
ジャガー・XJR-15は、1990年11月に発表され、1991年の初めに販売を開始した2シータのスポーツカーです。1992年までの総生産台数は53台。イギリス、オックスフォードシャーのブロックスハムにある、ジャガー・スポーツの工場で製造されました。
ジャガー・スポーツとは、ジャガー社とTWR(トム・ウォーキンショー・レーシング)社が共同で作ったベンチャー企業です。限定した顧客を対象にした超高級スポーツカーの生産を目的に設立されました。ジャガー・スポーツの工場があるオックスフォードシャーは、1929年にMGが創業された州でもあります。
ジャガー・XJR-15の「XJR」は本来、ジャガー社のレーシングモデルに冠されるのがルールです。ジャガーのレーシングモデルには、FIA(国際自動車連盟)により開催されていたIMSA GTP(インターナショナル・モータースポーツ・アソシエーション)と、WSC GroupC(ワールド・スポーツカー・チャンピオンシップ グループC)で闘うために製造されたモデルがあります。
IMSA GTP向けのモデルはジャガー・XJR-7、9、10、12、14、16です。またWSC GroupC向けにはXJR-6、8、9、11、12、14、17が存在します。ジャガー・XJR-15はジャガー車のワンメイクレースのために製造されたため、公道車でありながら、レースモデルのモデル名を持つに至りました。
ジャガー・XJR-15は、レーサーでありレーシング・チームのマネージャーとしても知られるトム・ウォーキンショーが、自動車デザイナーのピーター・スティーブンスに依頼して作られました。コードネームはR9Rでした。
XJR-15は、レーシング・カーのデザイナー、トニー・サウスゲートが手がけたジャガー・XJR-9をベースとし、ピーター・スティーブンスがデザインを担当しました。ジャガー・XJR-9は、1982年のル・マンでジャガーに31年ぶりの優勝をもたらしたモデルです。
ジャガー・XJR-15のインテリアはフルカーボン。ほぼ同時期に発売され、超高級コノリーレザーや最上級のウールカーペットが採用されていたジャガー・XJ220とは比較にならないほどに徹底したレーシングカー仕様です。ジャガー・XJR-15は、マクラーレン・F1に先がけて軽量カーボンコンポジット構造のモノコックボディを採用しました。
エンジンは、5,993ccのV型12気筒、最高450hpを出力。5速マニュアルのギアボックス、4輪ダブル・ウィッシュボーン独立サスペンションに、4輪ハイドロティック・ディスクブレーキを採用。
ジャガー・XJR-15の製造終了前には、XJR-15LMと呼ばれる限定モデルが5台、日本向けに製造されました。5台のうち、3台がダークグリーン、白とブルーが各1台とされています。エンジンはXKエンジニア社による7LのV12型エンジンを搭載し、700hpを出力。しかしこのXJR-15LMに関しては、現在情報がほとんど存在しないようです。
ジャガー・XJR-15はまた、日産・R390のベースカーとなったとも言われています。日産・R390は、TWRが日産自動車に協力して開発したレーシングカーで、1998年のル・マンで総合3位を飾りました。
総製造台数53台中、1台のみのブラック。エンジン音と公道走行の様子がこちらで楽しめます。(2分16秒)
TWR(トム・ウォーキンショー・レーシング)
TWR(トム・ウォーキンショー・レーシング)はスコットランド出身のレーシング・ドライバー、トム・ウォーキンショーによって設立されました。レーシングチームを擁するエンジニアリング会社です。TWRはマツダ やローバーと提携していた時期もありましたが、1982年から1989年まではジャガー社と最も強い協力関係を築きました。
1946年生まれのトム・ウォーキンショーは、フォーミュラ・フォードのレーシング・ドライバーとして知られます。イギリスやヨーロッパのツーリングカー・レースにも出場し、数々のタイトルを獲得しました。レーシングカーの技術にも関心のあった彼は1976年、TWRを設立します。
1984年、トム・ウォーキンショーはETCC(ヨーロピアン・ツーリングカー・チャンピオンシップ)にジャガー・XJSで出場し、優勝。1988年にレースから引退すると、TWRのマネージャーとして活躍します。
1989年にジャガー社がフォードに買収されてから、TWRとジャガー社との関係は徐々に遠いものとなります。その後、TWRとジャガーが共同で設立したジャガー・スポーツは1994年までに精算されました。ブロックスハムにあった工場は、ジャガーと同様、フォード傘下にあったアストン・マーティンの生産工場に取って変わられました。
ワンメイクレースとは
ワンメイクレースとは、アメリカではスペック・レーシングと呼ばれる自動車レースの1つです。自動車レースには、レギュレーションが異なるものが多数存在します。そのうち、同じメーカーの同じモデル、シャーシ、タイヤ、エンジンも全て同じ仕様という条件で競われるのが、ワンメイクレースです。マシンの性能ではなく、レーサーの技能が勝敗を決めるレースと言えるでしょう。
ワンメイクレースは、プロアマ問わず参加できるレースで世界中で開催されますが、有名なレースとしては、次の3つが挙げられます。
・ポルシェ・カレラ・カップ(PCC):ポルシェ・911カレラで争われる、ポルシェ・スーパー・カップ、ポルシェ・カレラ・ワールド・カップ、インターナショナル・レース・オブ・チャンピオンシップUSAなどのワンメイクレース・シリーズの総称です。
・ルノー・クリオ・カップ:1996年にスタートした歴史のあるレースです。14カ国以上で開催され、世界で最も競争が激しいレースの1つと言われます。
・オーストラリアン・ミニ・チャレンジ:名称が示すとおり、ミニのジョン・クーパー・ワークス・チャレンジ・エディション限定のレースです。2008年にスタートしました。
自動車デザイナー、ピーター・スティーブンス
ピーター・スティーブンスは1943年8月2日、イギリス生まれ。両親はともに、アーティストでした。ピーター・スティーブンスは、イギリスで最も有名なカーデザイナーの1人であると言われています。マクラーレン・F1やロータス・エラン、ロータス・エスプリなどをデザインした人物として知られ、現在は自動車業界でコンサルタントやデザイン、講師業などに携わっています。
高校と大学でアートを、ロンドンのRCA(ロイヤル・カレッジ・オブ・アート)で工業デザインを学んだピーター・スティーブンスは、1970年代にフォードのデザイナーとしてキャリアをスタートさせます。イギリスの工業デザイン事務所、オーグル・デザインを経て、ロータス・カーズではロータス・エランを手がけました。彼の次の仕事がジャガー・XJR-15。その後、マクラーレン・カーズでチーフデザイナーとしてマクラーレン・F1をデザインしました。さらにランボルギーニでチーフデザイナーとして活躍した後、イギリスに戻り、BMWやトヨタのコンサルタントをしています。
1974年からは出身校であるRCAで自動車デザインの客員教授を務めるなど、教育者としても自動車業界に長年、多大なる貢献をしました。1994年にはその業績が認められ、RCA賞を受賞、2001年にはロンドン運転者名誉組合のヴィヴァ賞を受賞、2002年「オートカー」誌のデザイナー・オブ・ザ・イヤーを受賞しています。
スペック詳細
ジャガー・XJR-15のスペック詳細
エンジン:5,993ccV列12気筒SOHC XK
最高出力:450 hp / 6,250 rpm
最大トルク:420 ft-lb / 4,500rpm
最高速度: 298km / h
0−100km/h加速:3.3秒
ボディサイズ:全長 4,800mm、 全幅 1,900mm、 全高 1,100mm
車両重量: 1,048kg
駆動方式:MR
トランスミッション:5速MT
乗車定員:2人
新車時車両価格:-
参考資料:
PETER STEVENS DESIGN
ピーター・スティーブンス氏 | Modelcar Academy モデルカー学
出典:wikipedia