「クルマと生きる物語」をシリーズで紹介
乗り続けてきたクルマには、経年と共に思い出が染みついていく。
初めての大きな買い物、傷つけないようにゆっくり走ったうねり道、彼女を乗せるためにシートをいつもより磨いたデート前夜。
映画や小説、音楽のなかにも、モチーフとしてもちいられるクルマ。
このコラムでは、そんなかけがえのないクルマとの思い出を描いたストーリーをご紹介していきます。
第一回 ヒミツを乗せる、自分だけのコックピットとしてのクルマ。
「川でお尻から腸を出して死んでいた猫のように、私も誰にも気づかれずに死ぬんやろか。」
家庭の事情で施設に預けられた子供たちは、施設の外の子供達を家の子とよび、自分たちを星の子と呼んでいた。
貧しさ、病、ネグレクト、浮気性、離婚、様々な大人の事情のもとで、自分たちはこれからどうやって生きていくのかを常に考える。
星の子が住む施設の裏には、もう走れなくなったsunny1200が放置されていた。
施設を出て行って、立派な大人になったもんだと言われている先輩も、昔はsunnyに乗ってわるいことをしてたらしい。
俺らの時と変わらんなあ。お前らも頑張れよ。
そう言って笑って帰っていく先輩が、子供たちは少し苦手だった。
俺らのころと同じ?
そんなんええことやない。
そんだけここが、おんなじことしか、できないばしょってことじゃ。
遊び場として、大人から逃げるシェルターとして、初めてのデートの場所に、恐る恐るタバコに火をつける場所として、sunnyはいつもそこに佇んでいる。
sunnyは子供達のイマジネーションで彼らをどんな場所にでも運んでくれる。
sunnyは子供達の心の拠り所として、いつも彼らを包んでくれる。
けれど目が覚めたとき、やっぱり彼らがいるのは、施設の裏庭だったりする。
本来ならば大人の空間とされる運転席に座って、彼らは過去、未来を思い描く。
居場所としてのsunny。
受け継がれてきた特別な秘密基地。
少年は夢を見る。
お父さんとお母さんの待つアパートに、クルマで走って戻ること。
少女は夢を見る。
sunnyで連れ去られた自分を、王子様が助けに来てくれないかしらと。
青年は夢を見る。
クルマでどこか、誰も自分を知らない場所に逃げられやしないかと。
いつしか彼らは、sunnyから離れて、大人になっていく。
今日のストーリー
マンガ:『Sunny』 松本大洋
児童養護施設「星の子学園」に暮らす子どもたちは、普通の家の子供と自分たちのちがいを感じながら、日々をすごしている。洋服も文房具もお下がり、お小遣いも、家の子よりはうんと少ない。そして、自分を怒ってくれる大人も……。
自分の存在価値に迷いながら生き、大人に反発しながらも、自分も大人の階段を上ってゆく子供たちの物語。