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生まれた時から便利な時代だった僕らの、不便なおもちゃ

これまでクラッシックミニをはじめとするレトロカーを所有する人の多くは、車事情に精通する趣味人だった。しかし近年は、自身の価値観に基づいて車を選んだ結果、ミニにたどり着いたというオーナーが増えている。
インタビューに応じてくれた廣瀬洋一さんは、社会人になって初めて買う普段使いの車にクラッシックミニを選んだ。廣瀬さんの愛車は、彼がボーカルを務める4人組ロックバンド「TAIRYO」のミュージックビデオにも出演している。
ミニにどんな価値を感じたのか、どんなふうにミニと遊んでいるのか、バンドメンバーに話を聞いた。

TAIRYO
2018年6月に結成した4人組ロックバンド。メンバーは大学の同級生だったVo.廣瀬洋一 Gt.長谷川響馬 Ba.小林大介 Dr.小林大起から成る。作詞作曲、ライブ活動に加え、ミュージックビデオの撮影まで幅広く手がける。

Firstアルバム「KITEKI」はこちら

廣瀬洋一(25)
長谷川響馬(25)
小林大介(26)
小林大起(25)

人生に、仕事とは違う「軸」を作った

ミニがPVに登場する曲の名前は、「sunset」。

ストーリーは、千葉の別荘にミニが乗り付けるところから始まる。アロハシャツを纏ったバンドメンバーが海辺で休日を過ごし、夕方、ふたたびミニに乗り込み、帰路につくという様子が描かれている。学生時代から友人同士であった4人が力を合わせて作った、はじめてのPVだ。

長谷川「もともと僕らはアコースティックギターサークルの仲間でした。当時はバンドをやろうという気はなかったのですが、社会人になってからバンドに興味を持って、みなに声をかけてみたんです」

廣瀬「アコギしか触ったことがなかったから、ドラムも、エレキも、ゼロから始めました。千葉の2nd STREETで中古を揃えて(笑)。やっと形になってきた感じがします」

長谷川「メンバーはみな、バンドと会社員を両立しています。だから、バンド一本で稼ごうという覚悟を持っている人たちとはスタンスが異なるかも。両方の柱に対して本気で向き合いたいという価値観をメンバー全員が持っています。あってるよね…?」

一同「あってるよ!(笑)」

長谷川「よかった!(笑) だから、かならずしも音楽にだけ必死じゃなくてもいいんです。人生を楽しむために、音楽という新しい柱を作りました」

新卒入社した会社の仕事を続けながら、2本目の軸として音楽活動を始めた彼らのスタイルは、人々が思い描くバンドマン像とはどこか異なる。
そんな価値観を持ったバンドがPVの演出にミニを採用したのはなぜだろう。PVの作成を主導した小林(介)さんは、「使わない手はないと思った」と語る。

小林(介)「ミニの出で立ちはものすごくバカンス感があると思うんです。ハイウェイを走るミニの姿を見ていると、これから休日がはじまるんだなと感じます」

廣瀬「僕は写真が好きなのでミニを被写体にすることもよくあります。どこに連れて行っても、素敵な画が撮れるんですよね」

撮影が行われた千葉の別荘は、日頃バンドメンバーが練習を行う拠点でもあり、定期的に通っているそう。

長谷川「乗用車にしては小さい作りなので、乗り込んだ人との距離感が近いと感じますね。飛行機でいうとLCCに乗っているような感覚(笑)。そのぶん、ぎゅっと一体感が生まれるので、楽しい気分になりますよね。曲のイメージにとても合っていました」

車に詳しいわけじゃない。でもミニが他と違うことは知っていた。

所有者である廣瀬さんにミニを買うときに惹かれたポイントは?と聞いてみたら、意外な答えが返ってきた。

廣瀬「エンジン音がうるさいところに惹かれました。戦闘機みたいな音量だから、後部座席に座っている人との会話が大変です。小さいくせに、うるさい。そこにギャップを感じて、道行くミニのことをかっこいいと感じるようになっていたんです」

小林(起)「僕は廣瀬が車を購入するときに一緒に中古車販売店に行きました。前のオーナーさんが取り付けた部品が残っていたりするから、一台一台に個性を感じましたね」

小林(起)「僕らもいつかカスタマイズしたいよね。荷物が載せられるように上にルーフキャリアをつけてほしい!」

画一的じゃなく、自分だけの一台を見つけることに楽しさを感じ、ミニを選んだ。そして自らもミニをカスタマイズしていくことに、可能性を感じているという。

廣瀬「道具感も好きだな。手入れや日々の使い方に工夫が必要だから、その分愛着も湧きます。僕はマニュアル車を選びました。ブレーキを強く踏まないと止まれないんですけど、そういうところがいいんですよね。それに、エンジンをかけるとき、10分くらい温める必要がある。その間はタバコを吸いながら待っているんだけど、そういう時間にも楽しさを感じます」

最新機能が搭載された車に比べて、ミニのスペックは便利ではないのかもしれない。しかし、不便だからこそ発生する待ち時間や、手間を楽しみたいというアイデアを廣瀬さんは持っている。車ファンではない彼がミニに愛着を感じている理由を語ってくれた。

廣瀬「僕らが生まれる前の時代は、なにをするにもアナログ。時間と手間をかけて、ものが作られていたと思います。たとえば音楽なら、レコーディングのときは何テイクも重ねて録っていくわけです。そうやって作られたものには、携わったたくさんの人の思いがこもっているような気がするんです。当然僕らはその様子YouTubeで観るだけなんだけど、なんでもデジタルで完結してしまう現代と対比して、すこし憧れを抱きます。そう考えるとミニも、いいな、可愛いなと思えるんですよね」

長谷川「生まれたときから人工的なものにあふれていて、人の手間暇を感じられないものが多かったから、ミニのように時間の経過や手間を感じるものに触れると嬉しくなるんだと思います。ただ、人工的なものの裏にも間違いなく多くの人の努力があるから、それを感じられるようになりたいな」

不便であるということを楽しむ彼らの価値観は、ミニの新しい楽しみ方のヒントとなるかもしれない。

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