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miniは、人々が乗り継ぎたいと思うクルマ。使われなくなったモノに光を当てたブランドのオーナー、大河内愛加さんの視点

サステナブルな生産消費活動が求められる中で、最新技術を駆使した素材や製品が注目を浴びている。一方で昔から長く使われてきたものを、大切に使い続けることもまた、サステナブルの在り方だ。そういう意味ではクルマもアパレルも、同じテーマに直面しているのかもしれない。

今回訪ねたのは2020年にminiのオーナーとなった大河内愛加さん。15歳で家族とともにミラノへ移住し、デザイン職などを経てアパレルブランドrenacnatta(レナクナッタ)を立ち上げた。「文化を纏う」というコンセプトのもと、着られなくなった着物やデッドストックの生地を活用したアパレルやアクセサリーを展開。京都市内で暮らす現在も、国内外から注目を浴びている。

そんな大河内さんのminiのストーリーを紹介する。

母と乗ったminiが、理想像

Aika’s 32chは2.7万人の登録者をもつYouTubeチャンネル。チャンネルの主である大河内さんがminiのオーナーになるまでの様子や、ドライブの記録が、Vlog形式で紹介されている。動画内ではminiの知識やこだわりが語られており、新たに購入を考えている人にとっても、すでにminiを所有している人にとっても、楽しい内容だ。

大河内さんの動画からはminiへの強いこだわりを感じるが、その背景には家族から受けた影響があるいう。

「miniは、私が小学生の頃に父が母へ贈ったクルマでした。とても可愛くて、子どもながらに私もいつか乗りたいと思っていたんです。その後家族でミラノに移住したので、そのminiとはお別れすることになりました」

miniは大河内さんにとって懐かしく、親しみのあるクルマだった。かつて母親が乗っていたminiが、クルマ選びの基準になったと続ける。

「日本へ帰国してから、miniを欲しいという気持ちが再燃して。他の車種には興味がなかったので、選択肢はminiを買うか何も買わないかの2択でしたね。母が乗っていたminiはmk-1仕様でした。ノーマルだったのをカスタムして色も特注で作ったりしてて。そんな遊びがいのあるクルマが欲しかったんです」

昨年購入した​​96年式miniはワンオーナーで、大河内さんが対面した時点ではカスタマイズがされていない状態だった。

理想のminiに近づけるため、納車時点ではヘッドライトやウィンカーランプ、フロントグリルをmk-1仕様に変更した他、クーパーストライプをアーモンドグリーンに塗装した。ドアミラーはルーカスミラーに付け替えている。

「予算の関係で、顔だけmk-1仕様、お尻はノーマルという状態での納車だったので、未完成な感じでした。でも、少しずつカスタマイズを繰り返していくのが楽しくて、変更を加えるたびに新鮮な気持ちになれるので一気に理想形しなくてよかったと思っています」

購入から1年の間にマイナーチェンジを繰り返してきた。お気に入りはモトリタのウッドステアリング。

「miniを迎えてから1年ほど立った頃に、テールランプを変更しました。大掛かりな工事でしたが、作業が終わってお迎えしにいったminiは、とても可愛くて!プニっとしたカーブがお気に入りです。同じタイミングでルーフもアーモンドグリーンに塗り替えています」

みんなが乗り続けたいクルマ、着続けたい洋服

大河内さんはこれまでクルマを持たない生活をしていた。「夫のクルマがあれば十分でした」と振り返るが、miniと出会ってからは、日帰り旅行やクルマ関連のイベントに出かけることも増えたそう。

「イベントではYouTubeチャンネルの試聴者さんからたくさん声をかけていただきました。人見知りをしてしまう性格なのですが、みなさんとても優しくて、ありがたかったです」

とある視聴者はクルマが生み出す環境負荷に関するコメントを書き込んでいた。大河内さんはどのように解釈しているのだろうか。

「電気自動車などの最新技術が使われたクルマに乗ることは、確かにサステナブルな行動ですよね。でも私は、古いクルマを乗り継いでいくことも、廃棄物を出さないという視点では一つのサステナブルの形だと思います。miniのような人々に長く愛されるクルマが増えれば良いなと思いますし、それは私の仕事であるお洋服に関しても、同じことがいえます。お客様に着続けたいと思ってもらえるものを作ることを大切にしています」

大河内さんは自身のブランドrenacnattaにおいて、デッドストックの生地や着られなくなった衣類を新たなものへ生まれ変わらせる取り組みを続けてきた。ブランドを立ち上げたのはミラノに住んでいた2016年のこと。最先端ファッションの街というイメージが強いミラノだが、大河内さんがブランドを立ち上げるに至るまでに、どんなものを目にしてきたのだろうか。

ミラノで出会った、古いものを使い続けるという価値観

横浜暮らしののち、一家はイタリアのミラノに移住。大河内さんは15歳から現地の高校に通い、日本とイタリアの違いに直面することとなった。

「あらゆることが違いました。イタリア人は『イエス・ノー』をはっきり言うし、『なんとなく流してしまう』ことを許してくれないんです。オブラートに包まないコミュニケーションに、はじめのうちは戸惑いましたね。また、ミラノの人たちは洋服のセンスが素晴らしくバランスやシルエットの美しさを重視しています。小物使いにも敏感で、シンプルな装いにバイブランドの小物などを組み合わせるのがとても上手だと感じました」

芸術が日常生活に溶け込んでいることも日本との大きな違いだったという。町中に存在する美術館は、人々が気軽に足を運ぶスポットだったそう。

「美術史の教科書に乗っている建造物が、学校の近所に点在しているような町です。授業中に教科書を閉じて実地へ赴くこともありました。移住を決めた父は、アートやクリエイティブが今後の人生に役立つと考えていたようです。振り返ると、本当にありがたい決断だったと思います」

ミラノには100年、200年も続く建造物が数多く存在している。そして古ければ古いほど、価値が高いとされているそうだ。一方で日本の建造物は築年数が経つにつれ価値が下がっていく傾向にある。

「ミラノ移住後も、夏休みには日本を訪れていました。帰るたびに変わる町並みは新鮮で、楽しげに思っていましたね。でも年齢を重ねるにつれ、古いものを大切に使い続けることの良さを理解していきました。ヨーロッパは地震も台風も少なく、石造の建物を作りやすいことから、古い建物が多く残っているのかもしません」

大学卒業後にはミラノにあるメイドインジャパンのプロダクトを扱うショールームに就職した。それが日本を見つめ直すきっかけとなったという。

「renacnattaを立ち上げたのはミラノに渡って10年が経ったころです。イタリアのデッドストックシルクと日本の着物に着目し、何かできないかと考えました。両方とも、現在は使わ『れなくなった』り、あまり着ら『れなくなった』もの。そんな共通点に着目して、ブランド名をrenacnatta(レナクナッタ)と定めました」

大河内さんのアイディアが多くの共感を集め、クラウドファンディングでは大きな反響を呼んだ。そうして生み出されたのが、巻きスカートをはじめとするアパレルや、スカーフなどのアクセサリー類。現在、オンラインストアやポップアップストアなどで商品を販売している。

京都で描くこれからの暮らし

大河内さんが京都とミラノを行き来するようになったのは、2016年のブランド立ち上げから2年後のこと。

「当時恋人だった現在の夫が京都に就職することになりました。renacnattaを通して日本の着物や職人さんとの関わりも増えていた時期でしたから、京都への移住は私にとっても好都合でした」

京都にあるガレージ付き一軒家でお会いした大河内さんは、無地の洋服とrenacnattaのスカーフを身につけていた。シンプルだけれど華やかな佇まいに圧倒される。家具は使い込まれた風合いのあるものを中心にセレクトされていた。

「洋服は流行り廃りのないものを選ぶことが多いです。」

miniに関しては、ゆっくりと、時間とお金をかけ、理想の一台にしていきたいという。当面の目標はホイールの10インチ化だそう。大々的なカスタマイズであることから、費用もかさむ。

「父もこだわりの強い車ばかり乗っていたので、クルマにはお金のかかるメンテナンスがつきものだというイメージがついていました。やっぱり古いものが好きですから、新しい車に乗るという発想はないですね。移動手段というよりは家族みたいに、大切に付き合っていく存在だと思っています」

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