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【ミニとの初恋 story-1】ブリティッシュスタイルを追いかけた「ウエスレイク」オーナー小熊克彦氏

「忘れていませんか、ミニとの初恋」というテーマで、ミニと共に過ごした人生を紹介していきます。
第一回目は、千葉県の酒々井町にお店を構える「ブリティッシュガレージ・ウエスレイク」のオーナー小熊 克彦氏のミニと過ごした人生です。ミニの走り、イギリスで見たブリティッシュスタイルに惚れ込み、”千葉県の小さなイギリス”を作り上げた小熊氏。

彼の原点はなんだったのでしょうか。

少女に恋をする前に、僕はミニに恋をした。

ミニに初めて触れたのは小学校6年生のとき。友人の兄が、ガレージにミニクーパーMK-Ⅱ or MK-IIIを持っていたんです。

「乗ってみたいか?」
「いいの!?」

喜び勇んで座ると、外で見るよりずうっと広くて、ドアがぼん!という音を立てて閉まる。ヘッドライトの形もすごくかっこよくてね。カスタムされたそのボディに興奮しました。
国道4号線を走れば、きゅっと小回りの利く動きを見せてくれる。僕も免許を取ったら絶対ミニクーパーに乗ってやるぞ、という思いが膨らんだのを覚えています。

ミニと生きていきたい。
その情熱が、人の心を動かし、自分の道を拓いていった。

会社勤めをしていたころ、僕が担当したのは車の塗装プラント設計。車のボディにいかにうまく色を乗せるかを考えるのが仕事でした。職人に囲まれて朝から晩まで働くうちに、せっかく手に入れたミニに触れる時間も削られて……。正直、なんで僕はこんなことをやってるんだろうと思ったものです。

そんな時、僕の未来を変えたのが、妻と相模原のミニクーパー専門店。そこの店長が、ミニへの愛情をもって働いている姿にそれはそれは感動しましたよ。
ああ、自分が生きたかった未来はここにある。どんなに生活が苦しくても、ミニのある暮らしをして、ミニによって食べていけたらどんなに幸せか。

でも僕には妻がいる。そうなると、やりたいだけで将来は選べません。
恐る恐る、妻に話しましたよ。

「俺、ミニの専門店で働きたい。給料は今よりずっと減るかもしれない。貯金を食いつぶす毎日かもしれない。でも、それでも、挑戦したいんだ。」

「……いいんじゃない? でも、途中で投げ出さないでよね。」

妻は、僕の背中をぽーんと押してくれました。貧しくなろうが、それがやりたいことなんでしょうという彼女の気概に、より心を奮い立たせられたものです。
そうして夫婦二人、相模原に移住することが決まりました。

実際、弟子にしてください! と頼んでも、はいはいと働けませんよね。
当時はミニがそれほど人気車でもなかったので、そもそも他人を雇う余裕なんてそのお店にもありません。
給料も満足に払えないかもしれないと言われながら、4回頼み込んでやっと働かせてもらうことになりました。

お金はない、イメージとは少し違う職場。
でもだからこそ、予想以上の経験を手に入れた。

働いてみると、これがまた自分でカスタムして楽しむのとは全然違う。
お客さんの前で修理するのにも思い切り緊張してしまうし、全ての修理が工場ではなく、時に道でやることもあるから勝手が全然わからないんです。最初の頃はそれは苦労しましたよ。

それでもね、苦労する中で自分をかわいがってくれる同業の方がいらっしゃって。ありがたかったなあ。時がたつと、彼のガレージに出入りさせてもらえるようにもなりました。

その同業の方は、ミニ以外にもたくさんの車を修理していてね。ガレージにはフェラーリをはじめとした高級車がずらりと並んでいました。もちろんその方といくら時間を過ごしても給料なんてもらえなかったけど、ミニ以外の車に触れて学べる機会なんて滅多にないので、僕は足しげく彼のガレージに通っていました。
最初は工具を手渡ししたり、手入れするところから。次に部品を触らせてもらって、少しずつお手伝いをしていく中で知識がたまっていくのが分かりました。

「おい、そろそろ修理の手伝いもやってみるか?」
「いいんですか!?」

大切な高級車や希少車を触らせてもらえたのはものすごく光栄でしたね。車を愛して手をかけていくことの大切さを身をもって知れたのは、本当にありがたいことだったなと思います。

手間のかかる車、ミニ。
だからこそ、家族同然に愛してほしい。

独立したのは、子供ができてより多くの稼ぎが必要だと分かったのがきっかけ。
ミニの似合う町で、イギリスのパブのような専門店を建てようと研究を尽くし、初めて自分の店を持ったんです。

幼いころの出会いから今日の経営に至るまで、ずっとミニに支えられてきた人生

ミニがそれほどメジャーでなかった時代から、今や街でミニを見かけないことはなくなりましたよね。それが僕はとてもうれしいんです。

でもその一方で、ミニという車を、使い捨てのように手入れをすべて人任せにしてしまう人も増えてきました。
ミニはもともと60年ほど前の設計の車。最新鋭の技術で作られた車と違い、自主点検は必須だし、エンジンが温まるまで走ってはいけない。ひどい状態になるまで気づかずに乗っていると、すぐ手遅れになってしまうんですよ。
それを、不便だから売ってしまおうというのは、とても寂しいことだと思います。

僕としては、ミニはペットと同じようにかわいがってもらいたい存在。

手間や気遣いは必要ですが、使い方によっては小回りも効いて使い勝手自由な優れた乗り物、それがミニなんです。
全て完璧にしてほしいとは言いません。自分が想う最善の愛し方で、ミニと向き合ってくれる人が増えることを祈っています。

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